中学入試の合否を左右する理科。このサイトでは、中学受験における理科のプロ講師が、理科の計算問題の解法と勉強方法, 暗記の勉強法とその対処法などをわかりやすく解説します。理科の豆知識では、受験に役立つ理科のトリビアを紹介します。
金属と水溶液の計算問題(応用編)
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〔2019/01/27 改訂〕
金属と水溶液の計算問題の最終回である今回は、入試にも頻出する表を含んだ問題に挑戦していただきましょう。表で数値を与える問題は、グラフの問題よりもレシピを見つけにくいという“いやな特ちょう”があります。前回の金属と水溶液の計算問題(基本編)で説明したように、グラフを含んだ問題は、グラフの変曲点(折れ曲がる点)さえ読み取れば簡単にレシピが引き出せます。今回ご紹介する例題3も、いかにしてグラフの問題に落としこむかを考えることが問題を解決するための足がかりととなります。
例題3 あるこさの塩酸60mLに、いろいろな重さの鉄を加えたときに発生するついて、あとの問いに答えなさい。
鉄(g) | 0.2 | 0.4 | 0.6 | 0.8 | 1.0 | 1.2 |
水素(mL) | 80 | 160 | 240 | 320 | 360 | 360 |
(1) この塩酸60mLとちょうど反応する鉄の重さは何gですか。
(2) 120mLの水素を発生させるためには、鉄が少なくとも何g必要ですか。
(3) 鉄1.2gとちょうど反応する塩酸は何mLですか。
(4) (3)のとき、発生する水素の体積は何mLですか。
(5) 鉄1.5gに塩酸120mLを加えたときに発生する水素の体積は何mLですか。
(6) 鉄3.6gに塩酸140mLを加えたときに発生する水素の体積は何mLですか。
(※ 解答・解説は、問題とともに〔金属と水溶液の計算問題(応用編)〕の問題・解答PDFに掲載しています。)
さて、化学の計算問題を解く上で最も重要なポイントはいかにしてレシピを見つけるかという一点にあります。完成度の高い問題ほど、織りこまれた量的関係が容易に見つからないよう出題者がさまざまな手法を駆使して巧妙に隠すものです。ときにはわざと誤った方向へ誘導するためのトラップ(罠)を仕掛けてあることもあります。そうしたトラップに惑わされず確実に正解へとたどり着ける能力の持ち主を選び出すことが入試を行う目的ですから、ある意味では当然のことでしょう。逆に言えば、出題者がどれほど巧妙に隠しても確実にレシピを見つけ出す方法論さえ身に着けていれば必ず正解にたどりつけるわけです。それでは、今回の例題の反応のレシピを見つけ出してみましょう。
正しい反応のレシピを確実に見つけるために、必ず実行してほしい大切なプロセスがあります。それは、表を左側から順に見ながら状況をイメージすることです。特に化学の計算問題を苦手とされるお子様は、これを意識して行ってほしいのです。例題3は、最も初歩的な手法でレシピを隠した問題です。計算問題が苦手なお子様の多くがこの表を見ると、ちょうど反応する量の関係は必ず表の中に書いてあるはずだと思いこんでしまうために、塩酸60mLと鉄1.0gがちょうど反応して360mLの水素が発生するという誤ったレシピを考えてしまうのです。
それでは、正しい考え方を解説しましょう。フラスコには60mLの塩酸が入っています。表の一番左側にあるように、その中に0.2gの鉄を入れると80mLの水素が発生します。加える鉄を0.4gにすると水素は160mL発生します。したがって、0.2gの鉄がとけるごとに、新たに80mLの水素が発生することがわかりますが、この関係が成り立つのは塩酸が十分にある間だけです。塩酸は60mLしか入れていないので、加える鉄の量が増えればどこかで水素の発生が止まることが予測できるはずです。では、いったいどこで水素の発生が止まるのでしょうか?
さて、ここで前回の例題2で扱ったグラフの形をもう一度思い出してください。金属と水溶液の反応において、横軸に加える鉄の重さ,縦軸に発生する水素の体積をとってグラフをかくと、初めのうちは一定の割合で右上がりに増加していくが、やがて加えた鉄が反応しなくなるとグラフは水平になるのでしたね。それを念頭に置きながら問題の表をよく見てください。表の右下に360という同じ数字が並んでいるところがあります。(問題を解く際は、同じ数字を必ず長い○で囲みます。)これは、鉄を増やしても水素の発生量が増えていないことを表していますから、ここがグラフの水平になった部分に相当するわけです。したがって、加えた鉄の重さが0.8g~1.0gの間のどこかで鉄と塩酸がちょうど反応するところがあることになります。
もうおわかりでしょう。この問題は表の中には塩酸とちょうど反応する鉄の重さが出てこないのです。ここで説明したように順を追って表に示された状況を考えていけばわかることなのですが、化学を苦手とするお子様の多くは表の中にちょうど反応する数字があると思いこんで問題を解くために、出題者のしかけた落とし穴に簡単にはまってしまうというわけなのです。
ここまでわかればすぐにレシピは書けますね。鉄が0.2g反応するごとに水素が80mL発生するので、鉄が0.1gとけるごとに水素が40mLずつ発生することになります。そして、60mLの塩酸から発生する水素は360mLが限度ですから、360÷40=9(倍)より、60mLの塩酸とちょうど反応する鉄の重さは、0.1g×9=0.9gとなります。これをまとめると、次のようなレシピになります。
鉄 + 塩酸 → 水素 + (塩化鉄)……言葉の化学反応式
0.9g 60mL 360mL ……過不足なく反応する量
いかがでしたか? 詳しくは別掲の解説のPDFに示した通りですので、ぜひ解説をよくお読みいただいて解法をご理解ください。なお、例題3の(1)はレシピを導くための設問ですから決してまちがってはならない設問です。もしレシピがまちがっていれば、それを用いて解く他のすべての設問で正解が出せなくなるのですから、最も重要な問題と言えるでしょう。レシピに絡む問題は、絶対に落としてはならない化学の計算問題の生命線なのです。