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てこのつりあいの解法(その2)

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〔2022/02/11〕

 てこのつりあいの問題の解法は、私のウェブサイトで最も人気のページの1つですので、もう少し例題を増やそうと思います。今回は"支点にかかる力"に注目する問題をご紹介いたします。

【問題】

2点支持のてこ

図のように、重さ40gの均質で一様な棒に3個のおもりをつり下げ、糸Pを200gの力で支えたところ、てこは水平につりあいました。▲は支点を表しており、おもりYの重さは100gです。糸の重さは考えないものとして、次の問いに答えなさい。

(1) おもりXの重さは何gですか。

(2) 支点(▲)が棒を支える力の向きを「上」または「下」で答えなさい。

(3) 支点(▲)が棒を支える力の大きさは何gですか。

◎ おもりXを別の重さに変えてから糸Pを支えたところ、棒が支点(▲)から受ける力が0になってつりあいました。

(4) このときのおもりXの重さは何gですか。

(5) このとき、糸Pを支える力は何gですか。


〔例題の問題と解答・解説〕

 このタイプのてこの問題は、『解法の手順』(PDFファイル)の通りに解き進めれば必ず正解にたどり着けますし、この問題も例外ではありません。しかしこの問題は、(2)の設問で問われているように設問を読んだ時点で支点にはたらく力の向きを確定できません。Pを引き上げる力を加減することで、支点(▲)が棒を上向きに支える場合と、逆に下向きに引いている場合の2通りが考えられるのです。それではどのように解法図をかけばいいのでしょうか? それを理解することが、この例題のねらい=最重要ポイントです。

 この問題では、力の向きがわからないのは支点(▲)にはたらく力だけで、その他の力の向きはすべて明らかです。こういうときは、"自分で勝手に力の向きを決めて"解法図をかけばいいのです。(1)で問われたおもりXの重さを□g,(3)で問われた支点(▲)にはたらく力を○gとして、実際にやってみましょう。

解法図1

 図1は、▲が棒を"上向き"に押すと決めた場合の、(1)~(3)の解法図です。したがって、▲を支点としたモーメントのつりあいの式は、10g×3+200g×4=(□+40)g×2+100g×7 となり、おもりXの重さは □=25g と求まります。次に、図1の上下方向のつりあいの式を立てると、○g+200g=10g+(25+40)g+100g となります。この式を整理すると、○+200=175となるため、たいていの小学生は「○に200を足すのに、答えが200より小さい175になるってどういうこと?」と思って混乱してしまいます。しかし、200-25=175になることに気付けば○=-25gと考えられるでしょう。つまり、○がマイナスになったのは▲が棒を上向きに押すと考えたからであり、実は▲が棒を下向きに25gの力で引いているという意味なのです。

解法図2

 "マイナス"なんて思いつかない、と思った人も多いでしょう。そんな人は、▲が棒を"下向き"に引くと決め直して考えればいいのです。解法図は図2のようになり、▲を支点としたモーメントのつりあいの式は上の式と同じです。▲にはたらく力は式の中に現れないので、力の向きが変わっても関係ないことは明らかですね。もちろん、□=25g です。そして、上下方向のつりあいの式は、200g=10g+○g+(25+40)g+100g となり、○=25gと求まります。つまり、支点(▲)には下向きに25gの力がはたらくという答えになります。

 さて、この例題からは、次のようなことが学べます。

・向きの分からない力が1つあっても、モーメントのつりあいの計算はできる。

・もし自分が決めた力の向きが逆の場合、求めた答えはマイナスの値になる。

 そんな"マイナス"なんて思いつかない、と思った人も多いでしょう。でも、この記事を読んだ皆さんは、解けないように見える式でも、マイナスという考え方が使える場合があるということを知ったじゃないですか。せっかく正解にたどり着ける正しい筋道で考えたのに、寸前のところで引き下がるなんて悔しいですよね? だから、こういうライバルに差をつける"奥の手"を、ぜひとも手に入れておいてほしいなぁと思います。今回の考え方は、てこの計算問題を解く上で本当に貴重な武器になりますよ。もちろん、それを使うためには、解法の手順を忠実に守る解法を身に着けることが前提ですよ。さあ、残りの(4)と(5)の設問にもぜひ挑戦してみてください。


【保護者の方へ】

 てこの問題の本質は、どこに計算上の支点を定めるかを見抜くことにあります。問題の難易度は、計算に必要な支点の位置の見抜きやすさとも言えます。数多くの問題をただ漫然と解くのではなく、なぜその解法で正解にたどりつけるのかを常に意識しながら勉強することが、より短い期間でてこの問題を解きこなせるようにする極意と言えるでしょう。これはてこの計算問題のみならず、理科の計算問題の解法のすべてに言えることです。お子様がこのような感覚を研ぎ澄ませていけば、理科の計算問題はどんどん解けるようになっていくものです。私の個人指導では、こうしたポイントを1つ1つ丁寧に理詰めで説明しながら、お子様が独力で問題を解けるようになるスキルを身に着けるまでしっかり指導を行っています。

 今回の例題で扱った"マイナスの概念"の理解を小学生に強いることには無理があると考える方もおられるでしょう。○+200=175が解けないと気付いたとき、すぐに▲が棒を下向きに引くとして考え直せば、この問題は普通に解けます。しかし、多くのお子様は袋小路に入ったときに一度戻って考え直すことができません。その場で固まってしまうのです。この傾向は、最難関校を狙う成績上位のお子様でも普通に見られます。「行き詰まったら元に戻って考え直す」習慣を身に着けることは、実は非常に重要なアプローチになります。

 最後に(4)と(5)の設問について少し触れておきます。この設問は、支点(▲)にはたらく力の向きがどの時点で入れ替わるのかを実際に計算で確かめてもらう設問です。実は(1)~(3)が解けなくても解答が可能ですし、むしろ(4)と(5)の方がずっと簡単かもしれません。お子様が解く様子をそばで見られれば、行き詰まったときのお子様の行動を確認できますので、ご参考になさってください。

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