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(5) 日本版GPS衛星に関する問題

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〔2019/01/02〕

 2017年夏に相次いで打ち上げられたのが日本版GPS衛星です。2018年、その本格的な運用がいよいよ始まりました。そこで今回は、この人工衛星に関する問題を取り上げてみましょう。

みちびき

 「中学入試に人工衛星の問題が出るのか?」と驚かれる方がいるかもしれませんが、ハイレベルな計算問題や人工衛星の軌道に関する論理思考問題は昔から存在します。

 今回の問題はかなり難しい部類に入りますが、最難関校を目指す受験生は考え方をしっかりと身に着けておいた方がいいでしょう。


【問題】

◎ 日本が打ち上げて運用している人工衛星にはさまざまなものがあります。その中で最も有名で身近な人工衛星は、気象衛星「 Ⅰ 」でしょう。「 Ⅰ 」は、[ P ]上空の高度が約( A )kmの円形軌道上を、地球の中心に対して1日で( B )度の速さで回っています。そのため、地球から見ると常に東経( C )度の[ P ]上に[ Q ]しているように見えるので[ Q ]衛星と呼ばれるのです。

(1) 気象衛星「 Ⅰ 」の名まえを答えなさい。

(2) 文中の( A )~( C )にあてはまる数字をすべて整数で答えなさい。なお、( A )は上から2けたの概数で答えなさい。

(3) 文中の[ P ],[ Q ]にあてはまる言葉を、いずれも漢字2文字で答えなさい。


◎ 2017年夏に打ち上げられ、2018年から本格的な運用が始まったのが“日本版GPS衛星”とも言える人工衛星「 Ⅱ 」です。(あ)今まではアメリカのGPS衛星だけに頼っていたため、位置情報の精度は高くありませんでした。しかし、「 Ⅱ 」の運用が始まることによって、今後は(い)非常に高い精度で位置情報が利用できるようになることが期待されています

(4) 日本版GPS衛星とも言われる人工衛星「 Ⅱ 」の名まえを答えなさい。

(5) 下線部(あ)のように、GPS衛星による位置情報の精度が悪化する理由の1つには、アメリカのGPS衛星が常に日本の上空に来るわけではないことが挙げられます。GPS衛星が日本の上空に来ないことによって位置情報の精度が悪化する理由を40字以内で答えなさい。

(6) 下線部(い)について、「 Ⅱ 」を使ったときに得られる位置精度はおよそどのくらいですか。最も近いものを次のア~オから選び、記号で答えなさい。ただし、位置精度とは実際の位置と地図上に表示される位置とのずれのことです。

 ア.約3m   イ.約1m   ウ.約30cm   エ.約3cm   オ.約0.3cm

(7) 「 Ⅰ 」が「 Q 」衛星と呼ばれるように、日本の上空を通る軌道を飛ぶ「 Ⅱ 」は「 R 」衛星と呼ばれます。

① 「 R 」にあてはまる言葉を漢字3文字で答えなさい。

② 「 P 」上空を飛ぶ「 Ⅰ 」の「 Q 」軌道をそのまま「 P 」に対して斜めに傾けた軌道を「 R 」軌道といいます。このときの衛星の動きを地球から見るとどのように見えますか。次のア~カから選び、記号で答えなさい。

QZSS-軌道の選択肢







③ ②の「 R 」軌道を飛ぶ衛星が飛ぶ向きをYまたはZから選び、記号で答えなさい。

④ 「 Ⅱ 」の実際の軌道は、日本の上空にいる時間を長くするために円軌道ではなく楕円軌道になっています。このときの衛星の動きを地球から見るとどのように見えますか。②のア~カから選び、記号で答えなさい。


準天頂衛星「みちびき」














 いかがでしたか? 最後の(7)だけは、かなり骨のある問題だと言えるでしょう。しかし、「準天頂衛星」や「8の字軌道」といったことは、新聞各紙でいろいろと取り上げられていたのですから、最難関校でなくても十分に出題される可能性はあると思います。そして、最難関校を目指される方は、(7)の③の「準天頂衛星がどのような理由でどの向きに8の字軌道を描くのか」をきちんと理解しておく必要がある、というのが私の見解です。


★ 「みちびき」に関するお薦めのウェブサイトを2つご紹介いたします。ぜひ参考になさってください。

・朝日新聞DIGITALの『3Dで見る準天頂衛星みちびき』…「準天頂軌道とは」というトピックでは、複雑でイメージしにくい準天頂衛星の軌道と地球からの見え方が小学生にもわかる動画で紹介されています。

『天空の8の字 準天頂衛星「みちびき」の軌道』…みちびきの独特の動きを小学生に説明するために大人が最低限理解しておくべきことを極めて分かりやすく解説されている秀逸なサイトの記事です。中でも、準天頂衛星が8の字軌道を描く理由を示した半天球図とその説明は、最難関校を目指す小学生ならぜひとも理解しておきたい内容です。

 なお、今回の例題では取り上げませんでしたが、「みちびき」の位置情報が極めて高くなることで、単にカーナビの精度が上がるといった表面的なことに留まらず、完全自動運転の実現可能性が高まること田植え機・耕運機などの遠隔操作による大規模農業への応用などが期待されています。そういったことにも、お子様が目を向けられるようになっていって欲しい、という願いをこめて、今回の記事は執筆いたしました。


 それでは、最後に解答例と簡単な解説を挙げておきます。

【解答例】(1) ひまわり   (2)A…36000  B…360  C…140

     (3)P…赤道  Q…静止   (4) みちびき

     (5) ビルや山などのかげになって衛星からの電波が届かなくなるから。

     (6) エ  (7)① 準天頂  ② ア  ③ Y  ④ ウ

【解説】

(1)~(3) 日本の気象衛星は、初号機が7月に打ち上げられことから「ひまわり」と命名された。「ひまわり」は、赤道上空約360000kmの静止軌道を1日で360度回ることによって、常に東経140度の赤道上空に静止しているように見える“静止衛星”である。ちなみに、現行の8・9号機は世界最先端の観測能力を有する観測機器を搭載しており、約500mの雲まで観測できる。「ひまわり」の高精細画像データとスーパーコンピューター“京”による数値予報モデルを組み合わせることで、天気予報の精度を飛躍的に高める研究が気象庁を中心にして進められている。

(4)~(6) 日本版GPS衛星は「みちびき」と名づけられている。GPS衛星の位置情報は同時に4つ以上の衛星から電波を受けることで正確さが保証されている。しかし、アメリカ(軍)が運用するGPS衛星が常に日本の上空にいるとは限らない。衛星の高度が低いことも多いので、衛星からの電波が高い山やビルにさえぎられてしまうことで精度が落ちるのである。「みちびき」の運用が始まれば、その精度は今の数mから最高で数cmと飛躍的に向上することが期待されている。

(7) 衛星からの位置情報の精度を高めるためには、少なくとも1機の衛星が常に日本上空にいるようにすればよい。そのため、長時間にわたって日本上空(準天頂)を飛び続ける“準天頂軌道”を周回する衛星が準天頂衛星「みちびき」である。

 準天頂衛星の軌道は、静止軌道を赤道面に対して斜めにしたものである。24時間で地球を1周する点では静止衛星と同じなので、地球から見るとほぼ南北に往復する軌道を飛ぶことになるが、実際には“8の字を描く軌道”となる。このときの軌道を地球から見ると、選択肢アのYのように8の字の上の丸い部分を右から左へ動くように見える。また、実際のみちびきの軌道は日本上空を通過する時間が長くなるように北側に長いだ円軌道を動いているので、選択肢ウのような変形した8の字軌道となる。

(注)実際に準天頂軌道を飛ぶ「みちびき」は1・2・4号機だけで3号機は静止衛星ですが、ここでは詳細な説明は割愛します。

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