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エルニーニョ現象の秘密

レベル表示:☆★★★

〔2020/04/19 改訂〕

 近年、中学入試の気象の問題に度々出題されるのがエルニーニョ現象ラニーニャ現象です。しかし、「エルニーニョ現象は南米ペルー沖の海面温度が高くなることで、日本では“冷夏暖冬”となる」という程度の知識では、最近の中学入試の問題をすべて理解することはできません。そもそも、地球規模の気象変動であるエルニーニョ現象の影響は様々であり、「エルニーニョ現象が起きれば、必ず日本が冷夏になる」というような単純な話ではないのです。そこで今回は、

  ① エルニーニョ現象はどのようなしくみ(メカニズム)で生じるのか

  ② エルニーニョ現象はどのようにして日本の気象に影響を及ぼすのか

世界地図-1

という2点に関する理解を深めていきたいと思います。今回はかなり長くなりますが、一つひとつの説明をしっかりと理解してください。

 最初に、太平洋域を示した右の世界地図を見てください。エルニーニョ現象とは、南米ペルー沖の海面水温が平常時に比べて数度も上がる現象のことです。このしくみを説明するために、太平洋を赤道面で垂直に切った断面図を示しながら説明していきます。

エルニーニョ-1

 まず、右の図のように、平常時の太平洋上には貿易風という東風が吹いていて、赤道周辺の海水は東から西へ吹き寄せられ、深さ数百mまで暖水がたまっています。一方、太平洋東部(南米大陸)の深海からは冷水がわき上がってくるので、海面の水温は太平洋西部(インドネシア近海)では高くなり、太平洋東部(ペルー沖)では低くなります。  また、暖水が集まるインドネシア近海では、海面から多量の水蒸気が蒸発します。そのため、強い上昇気流が生じて積乱雲がさかんに発生します。この上昇気流は北側にある太平洋高気圧の上空へと流れこみ、夏の太平洋高気圧の勢力を保つ原因の1つとなります。エルニーニョ現象を理解するためには、まずこうした平常時の地球規模の気象のしくみを理解しておくことが前提になります。

エルニーニョ-2

 では、エルニーニョ現象が起きると何が変わるのでしょうか? 右の図は、エルニーニョ現象が起こったときのようすを簡単に示したものです。エルニーニョ現象が起こると、平常時より東風は弱まるとともに、ペルー沖の深海からわき上がる冷水の勢いが弱まります。すると、インドネシア近海に集まっていた暖水が東の海上へと広がるので、ペルー沖の海面水温が平常時に比べて数度も上がるのです。このような暖水の移動にともない、積乱雲がさかんに発生する海域も平常時より東の方(南米大陸側)へ移ってしまいます。その結果、日本では、

 ① 梅雨明けが遅れる,② 冷夏になりやすい,③ 台風が多く近づく,④ 暖冬になりやすい

という主に4つの影響が出やすくなります。さて、皆さんはその理由がちゃんとわかりますか? 結果を覚えるだけでなく、これら4つの影響が生じる理由を理解した上で、説明ができるようにしておくことが何よりも大切です。まずは、上の説明をよく読み、自分で考えてみましょう!



世界地図-2

 それでは、右の世界地図も使いながら、その理由を説明しましょう。エルニーニョ現象が起きると、インドネシア近海にあった高温の海水がある積乱雲の発生域(上昇気流が生じる海域)が東へ移動して、日本から遠ざかることは説明しました。そのため、太平洋高気圧の勢力を保つ気流が弱まったり、太平洋高気圧そのものが東へ移動したりして日本から遠ざかります。これが①~④のすべての原因になるのです。

梅雨前線を北へ押し上げる力が弱まるので、梅雨明けが遅れる原因になります。

太平洋高気圧が日本に及ぼす影響が弱まるので、冷夏の原因になります。それだけでなく、平常時は日本のはるか北方に押しやられているシベリアの寒気が南下しやすくなることも冷夏の原因になります。

台風の進路に立ちふさがったり進行を妨げる力が弱まったりするので、台風が次々と日本に近づいてくる原因になります。

北上する気流が、シベリア高気圧から寒気が流れこむのをじゃましたり、低気圧が太平洋上で発達するのを妨げたりするので、暖冬になりやすくなります。


 何がきっかけとなってエルニーニョ現象やラニーニャ現象が起こるのかは現在の科学でもよく分かっていません。しかし、起きたときのメカニズムは皆さんでも理解できることです。私たちが目にする現象には必ず理由があります。その理由が何なのかを理解することが、理科を学ぶ上で最も重要なことだということを忘れないでください。



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 さて、ここからはさらに発展的な事項になりますが、難関校の合格を目指している皆さんは、ぜひとも理解してほしいと思います

 エルニーニョ現象が起きたからと言って、必ずしも冷夏になるとは限らないという話は最初にしました。エルニーニョ現象が起きているのに日本全国で猛暑になったり、北日本は冷夏なのに西日本は猛暑になったりすることは過去に何度もありました。このように、エルニーニョ現象が起きているのに冷夏になったり猛暑になったりするのはなぜなのでしょうか?

低気圧と高気圧

 まずは基本知識の確認です。北半球では、低気圧には中心に向かって反時計回りに風が吹きこみますが、高気圧では中心から時計回りに風が吹き出しています。そのようすを右の図に示しました。

日本地図

 次の図は、エルニーニョ現象が起こって太平洋高気圧が平常時より東に移動したときのようすです。高気圧の縁では時計回りに風が回りこむので、日本列島には南からの暖かい空気が流れこみます。一方、太平洋高気圧が弱まった日本上空には北から寒気が流れこみやすくなります。このようにして、日本の上空で寒気と暖気が勢力争いをすることになります。さて、皆さんにはもう理由がわかったのではないでしょうか?

 そうです。南下してくる寒気と北上していく暖気のどちらが優勢なのかによって、日本の気温は大きく左右されるからというのがその理由なのです。エルニーニョ現象による太平洋高気圧の位置の変化は、日本の天気を左右する原因の1つにしか過ぎません。その他の要因とのかね合いによって、日本各地の天気が決まるわけです。

 日本の天気予報は、こうした複雑な大気の現象の解析を、高性能なスーパーコンピューターを駆使して行われています。なかなか当たらないことも多い天気予報ですが、それでもその精度は世界に誇れるほど高いものなのです。


(保護者の方へ)

 夕方以降に各テレビ局で放送している天気予報では、さまざまな気象のしくみを理解するのに役立つ知識がよく紹介されています。最近の中学入試の問題でも、そうした知識が応用・発展的に問われる設問が散見されます。短い番組ですので、ぜひ録画して食事の際に見せるなどの工夫をされることをおすすめします。

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