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なぜ雲は落ちてこない? ~雲の正体とでき方の科学~

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〔2020/04/21 改訂〕

山に降る雨

 さて今回は、先日のフェーン現象の計算問題の記事の中では触れられなかった雲の正体とそのでき方について説明したいと思います。

 抜けるような青空の中に浮かぶ真っ白な雲。風に流されながら刻々と形を変えていくようすをながめていると時間が経つのも忘れてしまいます。一方で、梅雨の季節になれば分厚い雲が空をおおいつくし、何日も雨が降り続くのは本当にいやなものです。しかし、適度に降る雨は農業などを営む人々にとっては貴重な“恵みの雨”ですし、 湯気の立ち上る排気筒 街に住む私たちにとっても空気中にただよう小さな粒子(PM2.5や春先の花粉など)を取り除いてくれるなどの利点もあります。では、ここで問題です。どちらも小学4年生の理科で習う知識ですが、即答できるでしょうか?

(1) 雲の正体は何ですか?

(2) 空に浮かんだ雲が落ちてこないのはなぜですか?

霧吹きの水滴

 (1)のヒントは「雲は白く見える」ことです。また、(2)ヒントは右の写真です。いくらきり吹きで細かい水滴を作っても、雲のように浮くことはなく、吹いた水滴は必ず下に落ちていきます。なぜなら、どれだけ水や氷の粒が細かいとしても、まわりの空気よりは重いに決まっているからです。つまり「雲を作っている水や氷の粒はとても小さくて軽いから」というのは正解ではありません。

 さて、答え合わせをする前に、ちょっと別のお話をはさみますね。


 私たちが目にする雲は簡単に数え切れないほど多種多様ですが、理科(気象)の世界では大きく10種類に分類されています(→10種雲形といいます)。その中でも特に重要な雲が次の3つです。どの雲も中学入試によく出てきますので、確実に覚えておきましょう。

積乱雲…強い上昇気流のある場所で垂直に発達する雲で、入道雲・雷雲・かなとこ雲などと呼ばれます。寒冷前線で生じて短時間に強い雨を降らせたり、夏に夕立を降らせたりします。冬の日本海側などで大雪を降らせる雪雲も積乱雲で、日本海側では冬でも雷が鳴ることがあります。

乱層雲雨雲とも呼ばれ、分厚いので黒く見えます。温暖前線で生じて、長時間にわたって弱い雨を降らせ続ける雲です。

巻雲…はけではいてできる筋のように見えることからすじ雲とも呼ばれる雲です。最も高空(9000m以上)に生じる氷の結晶だけでできた雲で、温暖前線から1000km近く離れた所で見られるので、「巻雲が見えれば次の日には雨が降る」とも言われます。巻積雲(いわし雲・うろこ雲)とともに秋の代表的な雲としても知られています。


 それでは、最初の2つの問題の答え合わせをしましょう。(1)の答えは「小さな水や氷の粒」、(2)の答えは「雲ができるところには上昇気流があるから」となります。そして、今回のテーマである『雲のでき方』を簡単に言うと、「空気が上昇すると気圧が下がって体積が増えて温度が下がり、空気中の水蒸気が水滴となって雲ができる」となります。これを、順を追って詳しく説明しましょう。

(1) 水蒸気を含んだ空気が上昇する…雲ができるためには、 雲のかかる富士山 空気が上昇しなければなりません。空気の上昇パターンは全部で4つあります。難関校を目指す受験生は、この4つを必ず覚えておいてください。

湿った空気が山にぶつかる場合…平地では水平に吹く風も、山にぶつかると地形にそって上昇して雲が生じます。フェーン現象もこれに関係します。

強い日射によって地面があたためられて上昇気流が生じる場合…真夏の夕立や都市の上空で急速に発達する積乱雲によって降るゲリラ豪雨などがこれにあたります。

ハリケーン

低気圧の中…低気圧は反時計回りの空気のうずで、その中では強い上昇気流が生じます。台風の中にできる積乱雲などがこれにあたります。

前線…温度の異なる2種類の空気がぶつかる所で生じる前線では、必ず暖かい空気が冷たい空気の上にくるので、上昇気流が発生して雲が生じます。前線には、寒冷前線・温暖前線・梅雨前線などがあります。

(2) 上昇した空気の体積が増えて温度が下がる…上空の気圧は地表よりも低いので、空気が上昇すると膨張(ぼうちょう)して体積が増えます。そのとき、膨張した空気の温度が下がるのです。これを断熱膨張と言いますが、そのしくみは次回の『雲のでき方とエアコンの深い関係?』の中で詳しく説明します。なお、上昇する空気の温度は100m上昇するごとに1℃ずつ下がります。この割合はフェーン現象の計算問題のような問題によく出てきますので、覚えておきましょう。

(3) 露点に達すると、水蒸気が水滴となって雲が生じる…温度が下がった空気中で水蒸気が飽和(ほうわ)して、これ以上は水蒸気を含めなくなるときの温度を露点(ろてん)といいます。露点に達した空気の湿度は100%になり、水蒸気は水滴に変わり始めます。これを凝結(ぎょうけつ)といいます。こうして上空で生じた水滴の集まりが雲なのです。なお、雲が生じる高さを凝結高度といいます。また、雲の底はほとんど平らであることもわかってもらえるでしょう。

(4) さらに空気が上昇すれば氷の雲になる…上昇する空気の温度がまわりの空気より高ければ、雲が生じた後もさらに空気の上昇は続き、どんどん温度が下がっていきます。もし空気の温度が氷点下になれば、雲をつくる水滴は氷の粒になります。例えば、背の高い積乱雲の下の方は水滴の雲ですが、上の方は氷でできた雲です。また、最も高空にできる巻雲は、氷晶(小さな氷の粒)だけでできた雲です。




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 最後にもう1つだけ、大事な話をつけ加えておきましょう。

 雲のでき方の説明の(3)で、「空気が100m上昇するごとに温度が1℃ずつ下がる」と説明しましたが、これは雲ができていないときのことです。雲ができてからは、「空気が100m上昇するごとに温度が0.5℃ずつ下がる」ようになります。そこで皆さんに考えてほしいのは、なぜ雲の中では上昇する空気の温度の下がり方が小さくなるのか? ということです。

 ヒントを出しましょう。1つ目は「雲は水蒸気が凝結してできる」ということです。2つ目は「夏、日差しで熱くなった道路に“打ち水”をすると涼しくなる」という事例です。これは、道路にまいた液体の水が蒸発するときに大量の気化熱を吸収して水蒸気に変わることが原因ですね。だということは知っているでしょう。このとき吸収した熱はどうなる…? ということを考えてください。

 では、答え合わせをしましょう。液体の水が水蒸気になるときに吸収した気化熱は、上昇する空気が凝結して雲(小さな水滴)になるとき、逆に凝結熱として大気中に放出されます。つまり、「雲の中で水蒸気が水にもどるとき、大量の凝結熱を大気中に放出するため」というのが、雲の中で温度の下がり方が小さくなる理由なのです。

 フェーン現象が起きるとき、山をこえる前の空気中で雲が生じるときは100m上昇するごとに0.5℃ずつしか温度が下がりません。しかし、山をこえた後は雲が消えるので、100m下降するごとに1℃ずつ温度が上がっていきます。したがって、凝結高度が低いほど、山の両側で生じる温度差は大きくなるのです。

 近年、日本の最高気温の記録はどんどん上がっています。その直接の原因は地球温暖化の進行にともなう気温の上昇ですが、フェーン現象の発生が最高気温の上昇に拍車をかけていると指摘されています。夏、日本の南方海上から流れこむ空気には、より大量の水蒸気が含まれるようになりました。湿度の高い空気ほど露点が高くなるので凝結高度は低くなることはわかりますね。そのため、山を超える前後の気温差がより大きくなるので、さらに気温を押し上げるのです。


(保護者の方へ)

 地球温暖化に代表される最近の異常な環境変化に関する問題は、中学入試の問題でも年々取り上げられています。今回ご紹介したフェーン現象も、計算問題ばかりに注目が集まる傾向が強いのですが、もっと基本的なしくみの理解にシフトした出題が、難関校を中心に広がっています。気象に興味を持っているお子様はあまり多くはないのですが、ご家庭でも、4・5年生の頃から意識して科学ドキュメント番組を家族で視聴するなどして、日ごろから時間をかけてお子様の興味を惹いておかれることを強くおすすめします。

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