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雲のでき方とエアコンの深い関係?

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〔2020/04/23 改訂〕

 前回の、『なぜ雲は落ちてこない? ~雲の正体とでき方の科学~』の中で少し触れたように、今回は「なぜ上昇した空気が膨張(ぼうちょう)すると温度が下がるのか」ということについて、詳しく説明しようと思います。

 最初のお話は「気圧(圧力)と空気の体積」の関係です。高空を飛ぶ飛行機の中や高い山に行くと、スナック菓子などの袋が風船のようにふくらむのを見たことがある人もいるでしょう。これは高度が高いほど気圧(大気圧)が低くなり、袋の中の空気を押しつける力が弱くなることが原因です。袋の中には地表と同じ1気圧の空気が入っていますが、上空の気圧は1気圧より低いので袋がふくらむというわけです。

 さて、上昇していく空気は気圧の低い上空にいくほど体積が増える(膨張する)のですが、このとき同時に空気の温度が下がるという現象が起きます。これを断熱膨張といいます。空気は熱をとても伝えにくいのでまわりと熱のやり取りがほとんど起こりません。そのために、断熱膨張というわけです。小学生の皆さんには難しく感じられる言葉でしょうが、最近では難関校の入試問題にしばしば出てくる語句なので覚えておきましょう。ただし、言葉は難しくても、その原理は下の図が理解できればそれほど難しいものではありません。

断熱膨張

 今、地表にの熱を持っている体積が1Lの空気があるとします。この空気が上昇していき、体積が2L,3L,・・・と増加(膨張)しても、空気全体が持っている熱はのまま変わりません。すると、空気1Lあたりが持っている熱は、→③→と減っていくことになります。これが断熱膨張のしくみです。こうして、水蒸気を含んだ空気の温度が下がって露点に達すると、空気中に水蒸気が含めなくなり(飽和)、水滴となって出てくることで雲が生じるのです。



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 さて、ここからは最近の難関校の入試問題でよく出題される“エアコン(クーラー)のしくみ”に関するお話です。まず、右上の図を逆に考えてみましょう。1Lあたりの熱を持つ冷たい空気が3Lあるとします。この空気をギュッと押し縮めて1Lにすると、1Lあたりの熱を持つ高温の空気になります。この変化は断熱圧縮といいます。例えば、自転車のタイヤに空気入れで空気を入れるとき、空気入れの筒の部分が手で触れなくなるほど熱くなることを経験した人もいるでしょう。また、フェーン現象では山をこえた空気が平地へ降りてくるときに温度が上がることも紹介しました。これらの現象は、いずれも断熱圧縮が原因です。エアコンは、こうした断熱膨張断熱圧縮を利用しているのです。では、ここからは中学入試に出題されることもあるエアコンのしくみについて説明しましょう。

 エアコンには室内機と室外機があり、この2つが冷媒(れいばい)の流れるパイプでつながれています。冷媒は熱を運ぶ物質で、5℃くらいの低い温度で液体から気体になる性質をもった物質です。昔はこの冷媒にフロンガスが使われていたことは皆さんも知っているでしょう。部屋の中にある室内機と屋外に置かれた室外機の中には、どちらも熱交換器が入っています。熱交換器は熱をよく伝えるうすいアルミ板でできていて、その面積は広いものだと畳7枚分以上!にもなるそうです。もし熱交換器のしくみをもっとよく見たければ、自動車のラジエターを見せてもらうとよいでしょう。どちらもまったく同じしくみのものです。

 それでは、次の図を使ってエアコンで部屋の温度を下げるしくみを説明しましょう。

エアコンのしくみ

 

 まず、室内機に注目しましょう。約5℃に冷えた液体の冷媒が流れる室内機の熱交換器に室内の空気を流すと、室内機の吹き出し口から冷たい風が出てきます。熱交換器の中で冷たい冷媒が室内にある高温の空気から熱を吸収するのです。このとき、熱交換器の中では液体の冷媒が蒸発して気体になります。これは、注射の前にアルコールをぬると冷たく感じたり道路に水をまくと涼しく感じるのと同じ原理です。液体が気体になるときにうばう気化熱によって温度が下がるのです。

 室内の空気を冷やしたことで約10℃まで温度の上がった冷媒ガスは、パイプを通って室外機の中にある圧縮機(コンプレッサー)で圧縮されます。圧縮機はモーターのはたらきによって冷媒を押し縮めるはたらきをするものです。圧縮された冷媒ガスの温度は断熱圧縮によって約80℃にもなって室外機内の熱交換器へ流れこみます。こんなにも冷媒ガスの温度が高いのですから、真夏の40℃近い空気でも十分に温度を下げられる(=熱を放出できる)ことがわかってもらえると思います。ちなみに、真夏にエアコンの室外機から吹き出る風はかなりの熱風になっています。ぜひ一度は体感してみてください。

 さて、室外機の熱交換器を通ることで冷媒ガスの温度は約45℃まで下がり、再び液体にもどります。しかし、こんな温度では室内の空気を冷やすことはできませんね。しかし、この液体の冷媒が膨張弁を通るときに圧力が一気に下がることで断熱膨張が起こります。その結果、冷媒の温度は一気に約5℃まで下がり、再び室内機へと送られるのです。

  以上が、エアコンの動作のしくみです。エアコンは、冷媒の断熱膨張断熱圧縮を利用することで、まるでポンプのように室内の熱(ヒート)を室外へくみ出すので、このようなはたらきを『ヒートポンプ』といいます。

  ここで注目してほしいのは、エアコンは冷媒と空気に温度差を生じさせることによって熱を移動させるので、熱の移動には一切エネルギーが使われないということです。エアコンが大きな電気を使うのは、圧縮機のモーターを回すときだけです。エアコンは大きな電気を使うと思われていますが、数年ほど前から作られている最新型のエアコンは、圧縮機を動かすために使う電気エネルギーの6倍近い熱エネルギーをくみ出すことができるという点で、実は非常に効率の高い機械なのです。そして、そのカギとなるものが断熱膨張断熱圧縮というわけです。


(保護者の方へ)

 エアコンのしくみに関する問題は、この数年の間に中学入試でも度々出題されるようになりました。小学生のみならず保護者の方にとってもかなり難解そうに思えますが、入試問題では長い説明文(リード文)を読ませた上で、各部での圧力・体積・温度がどのような原理で変化するかを問うなど、かなり本格的な問題になっています。今後も入試に出題される可能性は十分にあるので、ぜひこの機会に理解してみてください。

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