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月の満ち欠け(1) ~満月は午後6時に上らない?!~

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〔2020/04/25〕

 「月の動きと満ち欠け」に関する問題を苦手としている受験生は多くいます。その一方で、月の問題は中学入試にとてもよく出題されます。そこで今回から数回に分けて「月の満ち欠け」に関する話題を取り上げていこうと思います。 冬の満月 最初に取り上げる月は満月です。最初に問題をひとつ出します。

問題 夏至の前後と冬至の前後に見られる満月のうち、南中高度が高いのはどちらですか。

 この問題を月の動きの応用知識として扱う塾は数多くありますが、この問題は満月に関する最も基本的な知識があればすぐ解けます。満月は、地平線上に一晩中出ていて、日の入りのころに東の地平線から上り、真夜中に南中して、日の出のころに西に沈む月です。月だけに限らず、太陽や星も、地平線の上に出ている時間が長くなるほど高い空を通って動くので南中高度も高くなります。例えば、夏至の日の太陽の南中高度が1年で最も高くなるのは、夏至の日の昼の長さ(=太陽が地平線上に出ている時間)が最も高いからです。したがって、問1の正解は、夜が最も長い『冬至の日』となります。

 多くの受験生がこの問題をすんなり解けないのには理由があります。非難を恐れずに言うと、それは多くの塾での月の問題の教え方がおかしいからなのです。その証拠に、「満月が出るのはいつごろ?」と問うと、99%の受験生が午後6時ごろと答えます。しかし、それは真っ赤なウソです。「満月は夕方出るのに、なぜ午後6時じゃないの?」と思うでしょう。でもよく考えてください。日の入りの時刻は季節によってまったくちがいますよね? 例えば、東京の日の入りは、夏至の日が19:00で、冬至の日が16:32です。季節によって日の入りの時刻が2時間半もちがうのに、満月はいつも午後6時ごろに上るなんておかしいと思わなければなりません。

 こういうお話をすると、必ず「月は難しい・ややこしい」という感想が出てきますが、確かにその通りです。多くの皆さんは「月は地球のまわりを円をえがいて一定の速度で回っている」と思っているでしょう。それどころか、多くの塾講師までもがそう思いこんで教えているのです。しかし、実際の月は皆さんのイメージとはまったく異なる動きをしています。次の図は、月が地球のまわりを動くようすを示したもので、入試問題でもおなじみです。満月から次の満月までの間に地球と月が動くようすを示したもので、例えば地球が1の位置にあるときは月も1の位置にあります。(満月は○、新月は●で表しました。)

月の軌道

 月の動きは、地球という飼い主のまわりをじゃれつきながら歩く、しつけのできてないワンコのようにしか見えませんね(笑)。しかも、月の動く速さが極端に変化していることにも注目してください。下手くそなドライバーが走らせる自動車のようなギクシャクした動きをしています。これこそが、実際の月の動きなのです。どう見ても単純とはほど遠い動きですよね?

 そこで、多くの塾では現実を無視して、月の動きを実際とはまったくちがう平準化した安易な表などにまとめて覚えるように指導します。その結果、多くの生徒たちは月の動きを正しく理解しないまま問題を解かされる羽目におちいっているのです。しかし、そんな表を使わなくても、もっと簡単に、そして何よりも正しく月を理解する方法はちゃんとあります。それは、

地球から見たときの月と太陽の位置関係を考える(地球を基準にして考える)

ということです。満月と新月を例に具体的に言えば、次のようになります。

 満月いつも太陽と正反対の位置にあるので、夕方(日の入りのころ)に出て、真夜中に南中し、明け方(日の出のころ)に沈みます。したがって、地平線の上に一晩中出ていることになります。

 逆に、新月いつも太陽と同じ方向にあるので、明け方(日の出のころ)に出て、真昼に南中し、夕方(日の入りのころ)に沈みます。したがって、地平線上に出ているときは常に太陽も出ているので見ることはできないのです。

 この考え方(覚え方)なら、どんな季節でも正しく考えることができます。参考までに、2019年のデータを紹介します。夏至の日に最も近い6/17の満月は18:53に出ます。冬至の日に最も近い12/12の満月は16:36に出ます。また、春分の日(3/21)の日の入りは17:53で、この日はちょうど満月ですが、月の出は18:07です。季節に関係なく、満月の月の出の時刻と日の入りの時刻がほぼ同じであることがちゃんとわかりますね。ですので、「満月の月の出は午後6時ごろ」なんていうウソをどうか覚えないでください。

 最後にもうひとつだけアドバイスがあります。それは、月の問題では

"午後6時"のように特定の時刻を覚えずに、"日の入り"や"夕方"のような表現で覚える

ということです。このように覚えれば、日の出や日の入りの時刻は季節によって変わっても、真夜中(午前0時ごろ)や真昼(正午ごろ)は季節によらず同じです。ぜひ覚えておいてください。その上で、個々の設問には選択肢などに応じて答え方を変えればよいのです。


(保護者の方へ)

 もしお子様が「月の満ち欠け」を苦手にされているのなら、少しの時間でもいいので、親子で実際に月を見ることを強くおすすめします。自分の目で月をよく観察することで、何か満ち欠けのしくみに気付けることが出てくるかもしれません。注意深く観察することで得られる何かを、どうぞ大切になさってください。「月の満ち欠け」に関する記事は、もうしばらく続けます。

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