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月の満ち欠け(5) ~入試によく出る俳句や短歌~

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〔2020/06/22〕

 中学入試の月の問題では、俳句や短歌などが題材として出題されることがあります。今回は、人々の生活に深く根付いていたさまざまな月を詠(よ)んだ俳句や短歌の中から、中学入試によく出題される俳句と短歌を1つずつご紹介します。

『菜の花や月は東に日は西に』与謝蕪村(よさぶそん)

 過去に何度も出題されている最も出題頻度の高い俳句が、満月を詠んだ蕪村のこの一句です。

夕暮れの菜の花畑の満月

 「菜の花」は春を表す季語で、もちろんアブラナのことです。「月は東に日は西に」とあるので、月と太陽が正反対の位置にあることから、この月が満月だとわかります。また、太陽が西に見えるのですから、この俳句を詠んだのは"春の日の入りのころ"すなわち午後6時ごろだということもわかります。一面に広がる真っ黄色の菜の花畑の向こうから白く輝く大きな満月がのぼってきて、その背後ではしずんだばかりの太陽で赤く染まった空が広がっているというダイナミックな光景を、わずか17文字で表現した素晴らしい俳句ですね。このイメージを満月と菜の花畑の2枚の写真を合成してみたのが、上の写真です。(いくつかの理科的な誤りはありますが、イメージということでお許しください。)


(ひんがし)の野にかぎろひの立つ見えて かえりみすれば月かたぶきぬ』柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)

かぎろい

 この短歌は万葉集にあるとても有名な短歌で、これを詠んだ柿本人麻呂は歌聖とも呼ばれる三十六歌仙の一人です。この歌は中学校の教科書には必ずのると言っていいほどの、人麻呂の代表作とされています。

 この短歌を理解する上で重要な「かぎろい」という言葉は、冬の早朝、陽がのぼる1時間ほど前の山際がそまっていく現象のことです。右の写真のように、まず黄色く見えます。その後、赤から白へと連続的に色が変わっていき、やがて日の出となります。この写真ではまだ見えませんが、もう少し時間が経てば山の向こうから太陽がのぼってきます。そして、ふり返って西の空を見ると、沈もうとしている月が見えるのです。この月も、太陽と月が正反対の位置にあるので満月だとわかります。


 どちらも有名な俳句・短歌ですので、この機会のぜひ覚えておいてください。最後に、理科ではありませんが、日本の歴史でよく耳にする俳句もご紹介しておきましょう。

この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば(藤原道長)

 平安時代に権勢を欲しいままにした貴族である藤原道長が詠んだあまりにも有名な短歌です。「この世は私のためにあるようなものだ。満月がかけないように私の思うようにならないことは一つもない」という意味の歌ですが、何とも大胆ですね。「欠けたることもなし」という表現を見れば、望月が満月のことだとわかります。

 紫式部の源氏物語の主人公である光源氏のモデルとも言われている道長は、権力の絶頂にあったときにこの歌を詠みましたが、その後はどんどん権力がおとろえていきました。実際の月も、満月になったあとはどんどん欠けていくものですから、当然と言えば当然なのですがね。


 さて、次回からは月の動きについて、お話を続けたいと思います。

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